2021.05.01

THC PRODUCTIONS MAG Vol.1

Text & Photo by Teisuke Morimoto / TKC Productions

はじめに

THC PRODUCTIONS MAG は大阪の零細自転車問屋、TKC Productionsが発行するZINEです。issue00が同人誌という体裁でコミックマーケット91にて最初に頒布されました。その続編として、今回は2020年夏にオレゴンのグラベルを旅した模様をお届けします。


オレゴン州ポートランドは近郊のシングルトラックが走行禁止の場合がほとんどで、 MTB 不毛の地とも言われて久しく、 最近はポートランドからクルマで東に40分の場所に完成したサンディ・リッジというトレイルシステムがどんどん進化しており、 汚名を返上しつつあるのですが、 不毛の地であったが故にグラベルバイクがサイクリストに受け入れられ、グラベルライドのシーンが大きく育ったという背景もあります。


それこそネットでオレゴンのグラベルを探すと、探しにくいアンダーグラウンドな MTB トレイルとは対照的に、 無限にグラベルのルートを見つけることができます。 クロージングブランド、 ケイデンス創業者のダスティン・クラインが現在ポートランド在住で、彼のYouTubeチャンネルでグラベルライドの模様が頻繁に公開されているので参考になりますし、 omtm.ccで多くのルートにログも公開されているのでお奨めです。

これは冗談にもなっているのですが、ポートランド近郊に良いグラベルはオレゴン州ではなく、コロンビア川を北に越えたワシントン州側にあるという言う人もいます。 実際、 ダスティン達も頻繁にワシントン州側に走りに行っていますし、筆者も行ったことがあるのですが、コロンビア川を望むトレイルは素晴らしいものです。

MTBのトレイルと違って補給が難しかったり、 トラブル時のリカバリーが困難な場合が多いので、今回は1人で走ることを考慮し、比較的イージーな廃線跡をリクリエーション向けトレイルに転用したグラベル、街中から自走でアプローチしやすいルートを紹介します。

バイクはキャニオンのグレイルにENVE SES 3.4ARを組み合わせ、 タイヤはパナレーサーのグラベルキングSK 38CをTLで運用という、考え得る最高の機材で挑みました。 それではバーチャルライドをお楽しみください。

CZトレイル

例えば日本から初めてオレゴンにグラベルを求めてやってきた、そんな初日に足慣らしとして走るのにちょうどいいのがクラウン・ツェラーバッハ・トレイルこと、CZトレイルです。元々は太平洋側沿いの山脈、コーストレンジから切り出した木をコロンビア川ほとりにある製材所まで運搬するのに敷設された鉄道の線路跡で、ポートランド近郊のスキャプーゼがその終点地になります。廃線跡はリクリエーショナル用のトレイルとして整備されており、MTBはもちろん、猛者ならロードバイクでも走れそうなほど綺麗な路面が特徴で、ファミリーでも楽しめる手軽なグラベルとしてポートランド市民から愛されています。スキャプーゼ側の起点(チャップマン・ランディング)はトレイルヘッドとして整備されており、駐車が可能でトイレも設置されているので、ポートランド市内からの自走をカットできます。

全行程は88kmで、うちグラベルは55kmほど。かつては木材を満載にした鉄道が通った廃線跡だけあり、グラベルバイクに最適な斜度、つまりトレイルヘッドから18kmの快適なダートでピークまで獲得標高350mほどを獲得した後はグラベルで9kmのダウンヒルをぶっ飛ばし、車道に出て12kmほど走ってからヴァーノニアという西部劇にでてきそうな小さな街まで行き、復路は同じルートで戻るというのが定番ルートです。

初日の足慣らしにちょうど良い、というのはそのオプションの多さにあります。スケジュールにゆとりを見て、ヴァーノニアで1泊して翌日に帰ることも可能、1泊しない場合でも復路はグラベルとほぼ並走する舗装路を走るとより早く帰ることができる上、ピークからグラベルに戻り、下りだけオフロードを楽しむということもできます。

特筆すべきは、 チャップマン・ランディングから14kmの地点に真新しいサイクルステーションが整備されており、 広い駐車場、 自転車用のワークスタンド、 空気入れや工具ー式、タイヤを差し込むタイプのパイクラック、 綺麗なトイレに飲み水までが用意されていることです。 特に飲み水とトイレは生死に関わることになりますし、実際筆者はトイレに救われました。

このように、廃線路へは一度投資して整備してしまえば以降はそれほど維持費を必要としない、観光資源としては理想的なサイクリングルートに転用できるので、世界的に同様の試みは多く見られます。ネバダ州のレイクタホでは19世紀後半、銀を採掘するための燃料として山で木を伐採し、木製の水路に木を流して山の麓まで移動させていました。ディズニーランドのスプラッシュマウンテンはこれがモチーフになっています。この水路跡も現在ではレイクタホを望むMTBトレイルとして、世界中からライダーが訪問するMTBの聖地となっています。


ニュージーランド北島にはその名もずばりティンパートレイルという廃線路をトレイルに転用した、全長87kmでワンウェイのルートがあります。太古の森の中を縫うように数々の吊り橋を渡るトレイルは大変走りがいがあります。

どちらにも共通しているのが、斜度がおだやかであるという点です。CZトレイルはスキャプーゼ側から登るとピ—ク手前だけが少しだけ辛く感じますが、それ以外は初心者や子供でも走れるほどです。スポーツサイクルで最初の鬼門となるのがヒルクライムです。登りで置いていかれてトラウマになるのはよくある話で、ルート選択は重要です。 今後、日本でも人口減により廃線が増えると思われますが、eBikeに頼らなくとも、廃線跡なら素晴らしいサイクリングルートを実現することができ、それは世界中からのインバウンドを集めるポテンシャルを持つことになります。自治体、鉄道会社の方、是非TKC Productionsまでこ相談を!


以上、 CZトレイルでした。