BUILDER PROFILE: MOOTS, THE ART OF AN EVOLVING CLASSIC

ビルダープロフィール:気品さを保ちつつ進化し続けるMOOTS

チタンは珍しい素材ではありません。地球で9番目に多い元素であり、携帯電話や塗料など、身の回りのさまざまなものに使われています。
しかし、このありふれた素材に命を吹き込むには、職人の力が必要です。

歴史:可能性を山ほど秘めた小さな町

Mootsは過去40年間、コロラド州スティームボート・スプリングスでバイクフレームをハンドビルドしてきました。そのうちの30年は、チタンのみの加工、溶接、仕上げを行っています。Mootsは1981年にケント・エリクセンによって創立され、彼が営むソア・サドル・サイクラリーでフレーム製作が開始されました。特徴的(あるいは人によっては奇抜)な円錐形をしたショップ兼本社の建物は、彼が町の焼却炉や製材所を再利用して建てたものです。彼はブルース・ゴードンのフレームビルディング教室を卒業したばかりの従業員と共に、ヨーロッパにならい、ローカルショップが興したサイクリングブランドとして、ハンドメイドのフレーム製作を始めます。

「1981年の当時はまだ、サイクリング業界でチタンが普及していなかったので、1991年までスチールフレームを作っていました」と、ブランドマネージャーのジョン・カリヴォーは言います。「ケントが最初に作ったのは当時流行っていたロードバイク。マウンテンバイクを作ったのは1983年のことです」。

ジョンの説明で、Mootsが人知れずマウンテンバイクの歴史の最前線にいたことがわかります。「ゲイリー・フィッシャーがいたマリンカウンティーとチャーリー・カニンガムがいたマウント・タムもそうですが、スティームボートでもケントによってマウンテンバイクが誕生していました。ただ、あまりに山奥すぎて、誰にも知られることはなかったですけどね」。木が森の中で倒れるのを誰も見ていなければ、それが本当に倒れたと言えないのと同じです。

EVOLUTION: BEYOND THE STEEL
進化:素材はスチール以外へ

チタンを最終的に使うことになったのは、スチール製のYBB ソフトテイルマウンテンバイクが人気になったため。スチールフレームを、「何度も折り曲げると最後にはちぎれてしまう」クリップに例えるジョン。Mootsは高い応力がかかったり繰り返し変形したりする部位で、スチールの性質を凌ぐ素材を探していました。

1991年にフレームビルダーの間でチタンが簡単に手に入るようになると、Mootsもすぐに採用し、一晩にしてスチールパイプの在庫を売却。耐疲労性、軽さ、耐久性、そしてもちろん、絹のように滑らかな乗り味で有名なチタンを新たな素材に選んだのです。

RAW MATERIAL: CITE YOUR SOURCES
フレーム材料:入手先が肝心

すべてのチタンパイプが等しく作られているわけではありません。

Mootsのフレームの品質は、素材へのこだわりが支えています。「最高のパイプのみを仕入れていました」とジョン。原材料のチタンパイプは、世界各地の数十社から仕入れられますが、Mootsはアメリカの会社とイギリスのレイノルズ社の2社だけからほぼ毎回仕入れていました。彼は定期的に届くパイプのサンプルについて尋ねられると、くすっと笑ってからこう説明しました。「海外製のパイプは、それら2社と同じ品質を保てません。まっすぐや円形ではない、品質にムラのあるパイプを使うと、フレームがバナナみたいに歪んでしまうんです」。

だからこそ、Mootsは航空宇宙産業グレードのチタンパイプのみを使用します。歪んだ飛行機に誰も乗りたくないことからわかるように、これらのパイプは非常に高い精度で作られています。「確かにより高価ですが、そうするべきですし、この点は妥協できません」とつけ加える彼。安いパイプを使ってコストを削減したところで、結局はブランドの評判に傷がつくのを知っているのです。

CRAFTSMANSHIP: HANDMADE PERFECTION
職人技:完璧さを求め、ハンドメイド

2から14時間。これは、Mootsのフレーム職人がチタンチューブの束から1本のフレームを完成させるまでにかかる時間です。チタンは加工が難しいものの、Mootsの溶接の美しさや厳密な精度は業界で定評があります。送り出すフレーム1本1本のハンドメイドによる完璧さを讃えてしまいがちですが、円状に重なった溶接痕の下にある、お客様から見えない部分も重要です。「溶接痕を取り除いて、溶接前のパイプがどれほど密接にくっつき合っているかをお客様に見せられたらいいのですが」とジョン。Mootsはまた、ダブルパス溶接を採用します。これは、1回目は溶接材を使わずに、2回目は溶接材を用いて接合部を溶接する方法のこと。単純に2倍の溶接時間がかかりますが、フレームの最終的な強度や完成度を高めるためには欠かせない作業です。

Mootsを購入されたお客様が期待するもの、それは、「箱から取り出した瞬間に伝わる完璧さであり、ハンドメイドフレームの中で最高の完璧さ。パイプ同士の接合具合、仕上げ、ヘッドセットを完璧に圧入できるか、ボトムブラケットを完璧にねじ込めるか、リアホイールは左右のステーの中央にあるか、が大切です」。ハンドメイドで完璧なフレームを一貫して製作できるMootsの技術力の高さは、現在の業界ではまず見られない特長でしょう。「BMWの自動車を買っても、『エンジンを載せた作業員が誰かを知っている』とはなりません」と、冗談を言う彼。

「でも、Mootsでは、フレームを作ったビルダーに会えるかもしれないのです」。

MOOTS + ENVE
MOOTSとENVEの類似点

ビルダーズ・ラウンドアップでENVEの施設を見る機会に恵まれたジョンは、製品への取り組み方や哲学がMootsに似ていると感じ、こう述べています。「ENVEの方針はMootsのものと同じでした。最高の素材を最高の方法で加工し、常に革新的な動きの先端にいるんです。Mootsのダブルパス溶接と同じで、彼らもより安くて簡単な方法を選べるでしょうが、そうはせず、妥協しない姿勢が製品に反映されています。今はRSLでSES 3.4 AR ホイールを使っていますが、最高ですよ」。

THE FUTURE: DOWN THE TRAIL
MOOTSの今後:後世へ受け継ぐ

フレームをハンドメイドし、それに伴う認知度や顧客満足度の上昇を見守り続けて早40年。Mootsは次にどんな展開を見せるでしょう? ジョンは今後の指針として、持続可能性を挙げます。「20年前の僕らより、今の若い世代のライダーの方が環境に関心を持っています。そして彼らは、環境にこれ以上の負荷をかけずにサイクリングを楽しもうとしているのです」。

そんな彼の望みは、お客様が生涯にわたってMootsに乗り続けること。バイクやコンポーネントの製造や出荷に伴う原材料とエネルギーは、驚くほどの量を必要としており、「チタンバイクを作ることの素晴らしさは、他のどんなものよりも長持ちするとわかっている点にあります」。実際、彼の喜びの一つは、お客様が工場を訪れ、古いMootsのフレームを見せてくれる時だそう。フレームを購入した本人が訪れる時もありますが、数十年後にそのフレームを譲り受け、今でも日常的に乗っている家族が見せに来る場合がほとんどです。先日は、1986年にクリスマスプレゼントとしてスチール製Mountaineerを手に入れた、70歳のお客様がいらっしゃいました。